なぜ、私たちはバリスタ競技会を開くのか

画面越しには味わえない競技を、どう楽しむか。豆の選択、飲む瞬間の工夫、協働をたどり、WBCで選手たちが示す判断と努力を読み解く。

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なぜ、私たちはバリスタ競技会を開くのか

WBC 2026 観戦ガイド——15分の舞台から、選手の選択と努力を読み取る

ワールド・バリスタ・チャンピオンシップ(WBC)の映像を見ると、一杯ができあがるまでに実に多くのことが起きている。選手はコーヒーが育った場所を紹介し、抽出を調整し、いつ、どのように飲んでほしいかを審査員に伝える。聞き慣れない品種や道具が次々と登場すると、どこから見ればよいのか戸惑うこともある。画面越しには味わえないからこそ、その説明をたどることが大切になる。

そんなとき、一つの選択に目を向けると、演技が少しずつ読み取れるようになる。なぜこのコーヒーを選んだのか。ミルクと合わせるときは何を変えたのか。抽出を終えてから液体を移し替えたり、飲む順番を案内したりするのはなぜか。それぞれの動作を意図と結びつければ、15分は、一人のバリスタがコーヒーをどう理解し、どう伝えるのかを知る時間になる。

なぜ、私たちはこのような競技会を開くのだろう。私がWBCに見いだす意義は、バリスタが自分の考えを一杯に具体化し、共通の基準で評価を受け、その方法を他の人と分かち合えることにある。順位を競う目標は準備に方向を与え、公開される演技は、その準備から生まれた選択を業界の人も消費者も一緒に考える機会をつくる。選手の成果を理解するには、結果とともに、何を解決しようとしていたのかを見る必要がある。

2026年のパナマ大会を前に、過去の選手たちが示したいくつかの選択をたどってみたい。豆を選ぶこと、飲む瞬間を整えること、生産者や次の収穫を考えること。その過程を知ると、初めて聞く名前の背後にある判断と努力が見えてくる。コーヒーを専門的に学んでいない観客も、自分の一杯につなげながら大会を楽しめるはずだ。

12杯に表れる技術

WBCでは、選手が15分以内に4人のセンサリージャッジへ、エスプレッソ、ミルクビバレッジ、シグネチャービバレッジを1杯ずつ提供する。合計12杯だ。シグネチャービバレッジは、エスプレッソに他の素材を組み合わせ、選手が構想した味を表現する飲み物である。コーヒー自体を抽出する技術に加え、ミルクや他の素材の中でどう表現するかも見えてくる。

審査では、実際の味わいの体験と、その説明の正確さを分けて評価する。たとえば選手が桃のような香りを予告したら、審査員はそれに当てはまる印象がカップにあるかを確かめる。エスプレッソの質感についても、体験と説明の正確さが評価される。おいしい飲み物をつくる力と、自分がつくった味を理解して伝える力が、それぞれ審査に含まれている。

この基準を知ると、バリスタが舞台で同時にこなす仕事が見えてくる。意図した味を準備し、4人に提供し、その味を捉えられるように説明する。説明と実際の飲み物を一致させるには、自分のコーヒーを細かく理解しなければならない。観客は抽出の動きだけでなく、提供の順序や説明の具体性からも、その準備を読み取れる。

私はこの点に、日々の仕事を深く見つめる競技会の役割を感じる。カフェでは短い時間に通り過ぎる豆の選択、抽出、サービスの判断を、舞台では一人の選手が集中的に示す。共通の評価基準は、その判断を振り返る枠組みになる。異なるコーヒーや考えを持ち寄りながらも、互いの取り組みを比べ、学べる理由だ。

最初の観戦ポイントは、予告された味と動作のつながりである。滑らかな質感を説明したあと、どのような抽出や提供方法を選ぶのか。ミルクの中で、どの香りを引き出そうとしているのか。画面から味を判定することはできなくても、その味を準備する判断は一緒にたどれる。

お客さまを理解しようとする思いも舞台に上がる

選手がどんな問いを持ち込むのかは、過去のプレゼンテーションからも分かる。2018年の大会後のインタビューで、アグニエシュカ・ロイェフスカは、お客さまをコーヒーの専門家のように扱うことで生じる戸惑いを語った。いつものコーヒーと味が違う理由を理解できず、再び来店しなくなる人を見てきたという。舞台で扱ったサービスや説明の問題は、カウンターでの経験から始まっていた。

2022年の決勝で、アンソニー・ダグラスはこの問題を「信頼」から考えた。コーヒーへの期待をつくり、実際の一杯でそれに応えることを発表の中心に据えた。挽いた粉を均一に分布させる道具も、予告した味を安定して提供する目的と結びつけて説明した。観客は複雑な道具の使い方とともに、なぜそれが必要だったのかを理解できる。

二つの例をつなぐと、大会と日常の距離が縮まる。お客さまが理解できるように説明し、その説明に近い体験を届けることは、私たちがカフェに期待するサービスでもある。舞台は、その仕事を細やかに準備して示す機会になる。機器を扱う手と、お客さまに向ける言葉を一緒に見ると、選手の力がより立体的に見えてくる。

2024年のミカエル・ジャシンは、飲み手の注意にも目を向けた。決勝で審査員に目を閉じ、呼吸を整え、これから飲むコーヒーに集中するよう案内した。彼が構成した体験には、立ち止まって受け取る時間が加わっていた。どんな案内が、どのタイミングで登場するのかを追ってみるとよい。選手は味の情報だけでなく、それを受け取る瞬間も準備している。

聞き慣れない品種を、目指す味から理解する

希少な品種や複雑な精製方法を紹介されると、観客はまず名前を覚えようとする。しかし選手には、それをカップに使うことで得たい結果がある。その結果を聞くと、見知らぬ名前が、選手の探ってきた可能性として読めるようになる。

2025年の決勝で、クリストファー・サユーン・ホフは、ゲイシャを選ばなければならないという圧力を感じたと話しながら、ウシュウシュ(Wush Wush)を紹介した。ウシュウシュもゲイシャもコーヒーの品種名だ。使用したコーヒーは、コロンビアのラ・ネグリタでマウリシオ・シャッタが生産したもの。公式資料には、ヌルクを使った2段階のナチュラルプロセスと記されている。ナチュラルは一般に、果肉をつけたままコーヒーの実を乾燥させる方法で、ここにはヌルクを用いた発酵段階が組み込まれている。

消費者がこの情報を読むときは、品種と精製の役割を分けると理解しやすい。品種はどんな植物から得られたコーヒーかを、精製は収穫後にどう扱われたかを示す。選手はその背景とともに、カップで見いだした特徴を説明する。ホフの発表や後のインタビューが重要なのは、彼が選んだコーヒーの特徴を語っているからだ。ヌルクという聞き慣れないものを、どんなコーヒーをつくるために使ったのかという問いにつながる。

こうした判断はブレンドにも表れる。2022年、石谷貴之バリスタはパナマのハートマン農園のゲイシャと、ベトナムのロブスタを組み合わせた。乳酸発酵を経たロブスタで刺激的な印象を抑えながら、ゲイシャにボディを補う構成だった。ボディとは、口の中で感じる重さや厚みを指す。ここで注目したいのは、二つのコーヒーに、どの部分を補い合う役割を持たせたかである。

2024年には、その判断がコース別の配合からさらに明確に見える。石谷バリスタはエスプレッソに、パナマのフィンカ・デボラのゲイシャ16gと、コロンビアのフィンカ・ミランのカトゥーラ2gを使用した。ミルクビバレッジでは、カトゥーラ17gとゲイシャ2gに主役を入れ替えた。大会後のインタビューでは、フレーバーと触感のバランスを目指し、ミルクも味を確かめながら選んだと説明している。同じ二つの豆でも、そのまま飲むときとミルクを加えるときでは、担わせる役割が変わるのだ。

石谷貴之バリスタの2024年の配合。エスプレッソとミルクで二つの豆の役割が変わる。

2025年の決勝でジェイソン・ルーが、パナマのゲイシャとマレーシアのリベリカをコースに合わせて配合した例も、同じ視点で理解できる。リベリカはアラビカとは別のコーヒー種である。品種名とともに、配合が変わる瞬間に注目してみたい。どの香りを前面に出し、どの質感を補おうとしたのかを追えば、豆の紹介が飲み物を設計する話になる。カフェでブレンドを選ぶときにも、構成する豆とともに、その組み合わせが目指す味を尋ねられるようになる。

この探求の背景には、先行する選手たちの試みもある。2015年、サシャ・セスティックはカーボニック・マセレーションを用いたコーヒーをWBCで紹介した。後に自身の文章で、同じ精製方法でも結果が異なる問題を解くため、ワイン生産者と協働したと説明している。大会後も発表や生産地での実験を続けたと振り返った。聞き慣れない工程名の背後には、結果をよりよく理解し、管理したいという問いがあった。

こうした発表を通じて、観客もコーヒーを見る言葉を増やせる。ウシュウシュという品種を知ったり、ブレンドを望む味を組み立てる方法として捉えたりする。選手は発見した可能性を公開の場で説明し、観客は次の一杯で思い出せる手がかりを得る。これが私の考える、競技会が共有する価値の一つだ。

クレマを取り除くと、何が変わるのか

豆を選んだあとも選択は続く。エスプレッソの上に浮かぶ茶色い泡、クレマをどう扱うかもその一つである。写真で見慣れた泡を、飲む前に分離すると、カップの印象はどう変わるのだろう。

2025年の準決勝で、フィリピンのマイケル・ハリスは、まずクレマを評価してから自分の案内を待つよう審査員に伝えた。続いて、エスプレッソの入った容器をカップの上に置いてもらった。使用したベター・ベッセル(Better Vessel)は、上部にクレマを残し、下部から液体を排出する道具だ。抽出を終えたあとに、飲み手へ届く部分をもう一度調整する方法である。

ハリスが説明した目標は、苦味や粗い印象を減らし、より甘く滑らかに感じるエスプレッソを提供することだった。それを、より長く、より高い抽出を試みる選択にも結びつけた。ここで甘いというのは砂糖を加える意味ではない。準備したコーヒーで好ましくないと感じた印象を抑え、甘さや質感を引き出そうとする感覚上の目標である。

この例は、抽出レシピだけでは一杯を説明しきれないことを示す。粉量と抽出液量が同じでも、最後にカップへ移す過程は変えられる。ハリスは抽出と提供をつなげ、望む体験を設計した。観客にとっても、道具の名前とともに、その目的を理解することが大切になる。

抽出直後を整える試みは、以前の舞台にも見られる。2021年のヒュー・ケリーは、抽出液を凍らせた金属に通して急速に冷却する方法を披露した。第1ラウンドでは、香りを引き出すための選択として説明している。2023年のボラム・ウムの決勝にも、凍った金属球を使った急速冷却が登場する。メーカーのNucleusは、ケリーが使った試作品を出発点に、支持構造や安定性を改良してParagon Espressoを開発したと説明している。

ここには、アイデアが具体的な使い方へ発展する過程が見える。クレマの分離と急速冷却は異なる方法だが、どちらも抽出後、口に届くまでを細かく扱う。どの印象を伝えたいのかを聞き、道具の動きを見れば、小さな装置が全体の計画の中で担う役割を理解できる。

ベター・ベッセルは現在、販売される製品になっている。大会の方法をカフェや家庭でも比較できる道ができたことに意味がある。店で使うなら、同じコーヒーをクレマのあるものと分離したものに分けて味わい、お客さまがどちらを好むかを確かめたい。待ち時間や洗浄も含め、繰り返し提供できるかを考える必要がある。

私はここに競技技術の実用的な価値を見る。慣れ親しんだエスプレッソの一要素を、分けて比較できるようになることだ。泡の見た目から一歩進み、飲む味の中での役割を確かめられる。ハリスの選択は、より細やかに比較する方法を残した。抽出後の短い時間まで整えようとする試みは、舞台の外でも続いていく。

一杯をともにつくる人たちを見る

選手のコーヒーには、農園で行われた選択も含まれる。品種を育て、収穫し、発酵させ、乾燥させる仕事が舞台の一杯につながる。生産者の名前と一緒にどんな作業が語られるかを聞けば、一人が立つ舞台の背後で、複数の人の仕事がつながっていると分かる。

2023年のボラム・ウムは、決勝の中心にチームワークを置いた。生産者、ロースター、飲み物の開発に協力した人々の役割を紹介し、審査員にも飲み手としてチームへ加わるよう呼びかけた。一杯ができるまでの協働を演技の構成にしたのである。農園名とともに、どんな仕事をやりとりしたかを聞くと、舞台裏の貢献が具体的になる。

2025年のジャック・シンプソンは、自分の訪問に先立ち、生産者のジョナサン・ガスカが新しいバイオリアクターを導入したことを語った。バイオリアクターは、発酵が起きる環境を管理する装置である。自分の関心が相手にどんな期待を生んだかを振り返り、新しい品種や精製を求めたあと、そのコーヒーを毎年買い続けるのかと問いかけた。

シンプソンは、次の購入まで発表の中に含めた。紹介する側が生産者の投資と時間を考えるという点で重要な場面だ。買い手の欲しいものが変わっても、生産者には導入した設備があり、次の収穫を準備しなければならない。一度の大会用購入と継続的な注文では、農園が計画できる範囲が異なる。私がこの話で重視するのは、購入を続けられる条件だ。どんなコーヒーを、どれほど、どの期間買えるかを話し合うことが、実験を持続させる基盤になる。

消費者にもつながる問題である。印象的なコーヒーに一度出会う楽しみと、気に入ったコーヒーをまた飲める楽しみは違う。大会の発見が後者につながるには、選手の選択のあとに生産と購入の関係が続く必要がある。その関係まで説明する店は、新しい味がどのようにメニューになったかを伝えられる。

2026年、選手の選択をたどりながら見る

2026年のWBCは10月22日から25日までパナマで開催される。今年の規則からエスプレッソの推奨抽出時間「20〜30秒」が削除されたことは、観戦にも役立つ変更だ。公式の変更概要では、その時間が評価に結びついていなかったためと説明されている。ストップウォッチの数字を正解と考えるより、その時間でどんな味と質感を準備したのかを聞きたい。

スプーンを提供せず、別の飲み方を案内する場合の条件も明確になった。公式説明では、従来の運用を明文化した変更とされる。ハリスの例のように、抽出後にどんな動作を求めるかを見ると、意図された体験が理解しやすい。飲む順番は、レシピを実行する最後の段階にもなりうる。

今回、私は豆や道具の名前のあとに続く説明を聞きたい。ウシュウシュならどんな味のために選んだのか。クレマを分けるなら何を変えたいのか。生産者との実験は次の購入にどうつながるのか。説明が具体的になるほど、会場にいない観客も選手の判断をたどれる。

そうして見ると、順位とともに記憶に残るものが生まれる。ある選手がなじみのない品種に見いだした可能性、別の選手が飲む瞬間を変えるために考えた道具、生産者との関係を続けようとする考え。それぞれの試みが公開されることで、次の人の実験や対話が始まる。

なぜ、私たちはバリスタ競技会を開くのか。私は、よりよい一杯への考えを実際の飲み物にし、評価を受け、互いに学べる場だからと答えたい。選手たちは自分の選択を示し、その場をつくっている。努力を読み取るために、すべての技術を理解する必要はない。何をよりよくしたかったのか、そのために何を選んだのかをたどることから始まる。

今年も舞台で優勝者が決まる。その結果を待ちながら、一人ひとりが準備した一杯の理由にも耳を傾けたい。普段飲んでいるコーヒーにも同じように見つめられる選択があると気づけたら、大会を見る楽しみは、次の一杯まで続いていくだろう。

Notes & Sources

  • WCC official 2026 rules and change summary
  • WCC announcement of the 2026 rules (April 28, 2026)
  • WCC 2025 rankings and coffee information
  • Official 2025 final routines: Jack Simpson ; Christopher Sahyoun Hoff ; Jason Loo. Competitors’ statements, not independent evidence of processing effects.
  • Thomas Wensma, Perfect Daily Grind, August 26, 2026:
  • Official Michael Harris 2025 semifinal
  • Henry & Sons / The Vault
  • Lily Kubota, Daily Coffee News, July 5, 2018
  • Official Anthony Douglas 2022 final
  • Official Mikael Jasin 2024 final
  • Saša Šestić’s own retrospective
  • Official Hugh Kelly 2021 first round
  • Nucleus Coffee Tools, September 20, 2024
  • Takayuki Ishitani’s direct post-WBC interview, July 16, 2024
  • Coffee Journal’s account of the 2022 competition coffee served after the event

Sources checked: October 21, 2026.